成田悠輔

イェール大学・経済学者成田悠輔が語る、ゴダール監督映画《ONE PLUS ONE》とマティス論

今回は、Youtubeチャンネル「アートと出会う」現代アート専門番組【MEET YOUR ART】よりイェール大学・経済学者成田悠輔のゴダールとマティスに関するインタビューを書き起こし。

彼はゴダールを15歳から観ていて達観した映画批評。そこにたどり着くまでの道のりも気になるほどに、アートや芸術と生活というものをふわふわ、ふらふらと行き来していて、彼自身がアートと消費物の間のような存在にも感じた。

個人的に好きだったゴダールとマティスの両方を彼も好きだというのは驚いたし嬉しかった。インタビューの後半部分は、出版にも触れていてこちらも興味深かったので後日まとめます。

インタビュー書き起こし

作品というのかわかんないんですけど《ONE PLUS ONE》っていう映画があって、それのポスターですかね。

何歳ごろに買った?

15歳前後とかだったんじゃないかなと思っててなかなか高校あたりの時代にあんま学校とか授業とか行ってなくてひたすらなんか名画とかで安く映画を見るか、あと当時ってまだ街中にあのレンタルビデオ屋みたいなのレンタルDVD屋みたいなのたくさんあったじゃないですか。

ああいういうところで1本100円ぐらいで借りて、映画見るみたいなずっとやってたんですよね。その時に、確かジャンリュックゴダールの作品もだいたい最初から最後まで。当時2000年前後とかなんでゴダールの映画史っていう長大な映画作品が出た頃で、そこから一番最初の『勝手にしやがれ』からその前の短編の『小さな兵隊』とかあのあたりですか、を全部見るみたいな謎のマラソンみたいな一人でやってたんですよ。

その時に多分このポスターを、その古本屋のどっかか、名画座で見つけて買ったっていうのが最初かもしれないですね。アートじゃないですけどね、いわゆるアートじゃないですけど。

なぜこのポスターを購入した?

ゴダールのなんか作品たちの中でおしゃれすぎない、かといって政治すぎない、過激すぎないみたいな、ちょうど真ん中あたりのいい塩梅のところをバシッといってる作品だなって感じがすごいしたんですよ。

多分、《ONE PLUS ONE》は70年代の作品とかでその前ってゴダールは政治の時代みたいな感じで『中国女』とか『ヒア&ゼア』とか、その過激なプロパガンダパロディ映画みたいなのを撮ってた時期じゃないですか。

そこからその後の、80年代以降のいわばハイアート化していくゴダール映画のちょうど中間地点で、そのポップさと社会性みたいなのとアート性みたいなのが、なんかちょうどいい感じに混ざり合った時期だったんですね。

その僕が買ったポスターはなんかその3つが混ざり合ってる感じが、青、黒、赤みたいな3色ぐらいでスッと表現されてて、《ONE PLUS ONE》というタイトルがど真ん中にドンと出てて、その上に、カメラの撮影用のクレーンみたいなのに女性が乗っかって海岸でグワーッと上の方まで連れてかれるみたいなすごい強烈なシーンがあるんですよ。

そこのショットの写真だけはバッと載ってるみたいな感じで、その全体の組み合わせがちょっと

ポップでクールでかつピリッとするっていう感じだったかもしれないですね。

その後、あんまりポスター買わなくなって。僕そのポスター買って、確か裸のまま額とかに入れずに確かセロハンテープで壁に貼り付けてたんですよ。

そうしたら、だんだんだんだん黄ばんでいくじゃないですか。で、ポスターとかって丸まっていきますよね。でそのたびに貼り直したりして、だんだんセロテープだと耐えられなくなってくるんで、ガムテープとかで貼り始めたりして、ギリギリまで耐えるみたいなことやったんですよ。

で最後多分ボロボロになってもう崩壊するみたいな感じで、たぶん引っ越しとかも色々あってどっかのタイミングで消失しちゃったんですよね。それがちょっとあのペットを飼ってみたら亡くして悲しくなったみたいな経験値として残っていて、ちゃんと額に入れて飾れって話なんですけどそれ以来あんまりポスターを買わなくなったかもしれないですね。

その儚さが、いいところであり悲しいところでもあるっていう感じですかね。そこは大事だと

思っててそのポスターとかって、そのアート的なものと商品的なものが混ざり合ってるようなものじゃないですか。当然アートでありデザインであるが同時に量産品でもあると。で消耗品でもあるじゃないですか。いわばその作品を広告するために壁に張り出されて何ヶ月か1年かすると次のものにとって代わられていくっていう、孤独なマーケットのサイクルの犠牲者でもあるわけですよね。

という意味で言うとそのアートであるものとアートでないものとか、ただの生活ただのマーケットただのビジネスみたいなのの間あたりにあるものだと思うんですよね。だからちゃんと保護してアート作品として飾り続けるよりもむしろ消費しないといけないものなんじゃないかって気がするんですよ。

ただ消費したら消費したで悲しくなるというこの身勝手さですね。

普段、美術品の購入や鑑賞はされるんですか?

そうですね普通にアートは消費者として観に行きますし、時々買わされたりすることもあって。知り合いで結構アーティストとかちょくちょくいて、だいたいあのあんまり売れない、微妙な生活をしてるアーティストの知り合いで、ちょっと呼び出されて謎の個展とかを見に行って。

そうするとの密室に連れて行かれて、とりあえずこれでどうですかみたいなアウトレイジ的な空気になって買わざるを得なくなって買って帰ってくるとかっていうことが結構ありますね。あんまりそのちゃんとしたコレクションとかちゃんとした投資としてのアートみたいなことにはそんなに興味がわかなくて、まあ特にそれやってる人が多くてなんかエスタブリッシュされてる業界って感じあるじゃないですか。

そういうところは距離を置きたいなっていうあまのじゃくな人間なんですよ。

だからむしろその買ったりお金を使ったりするのは、そのアートとアートでないもののなんか間あたりだから、そのポスターもそうだしファッションもそうじゃないですか。そういうそのアートと商品の間にあって投資にはならないが純粋なその場限りの消費でもないみたいな、でもちょっとアート…本当のアートコレクションにも入門してみたいなと思ってるところなんでこのチャンネルをちゃんと見ようかと思っているところです。

好きな作家や記憶に残っている作家はいますか?

月並みですがマティスは昔から、好きっていうよりむしろなんかどこまで見ても、どこまで解読しようとしても解読しきれない底なし沼みたいな存在としてすごく興味がありますね。全く他の人たちが見えていないものを見えてるような感じがする作品じゃないですか。

そのなんか畏怖の対象として、なんか昔から、10代の頃から見ていたような気がする。

結構当時、岡崎健二郎っていう彼自身がアーティストの人が書いた『ルネッサンス経験の条件』っていう本があって、それが出たのが多分僕がまた中学15歳ぐらいの時でたまたまそれを読む機会があったんですよね。それのその結構コアな部分の一つがマティス論みたいなので、それに影響を受けたってのはあるかもしれないですね。

なんか昔だと村上隆さんが、例えばなんかピカソとかウォーホルみたいな同時代的に時代の寵児になるアーティスっているじゃないですか。そういう時代の寵児になるアーティストっていうのは、所詮時代の寵児になれる程度の人でしかないので、必死に徹底的なマーケティングと広告とブランディングを頑張っただけっていう部分があると。だから彼らが何を考えてどんな景色を見ていたかは自分にもわかる、みたいなこと書いたんですよ。

だけどマティスのような人については、彼が何を目撃していたのか自分にはわからないみたいなんですよ。だからそういう存在が好きっていうよりは、ずっとしこりのように残ってるっていう感じがありますよね。

だからアートっていうのも、なんかそういう機能を果たしてくれるものとして自分にとっては大事っていう感じですかね。つまり自分が経験しているものとか、自分が感じているものとかっていうのが、何か的外れなのか、ほとんど取るに足らない米粒のような存在であるかのように思わせるようなもっと大きなパースペクティブとか、もっと大きな体験の空間みたいなものがあるのかもしれないって思わせてくれる触媒としてのアート、みたいな感じですかね。

<後半に続く>

成田悠輔×ゴダールに関する本ブログ記事『成田悠輔の横道の逸れる人生を表したような音楽と映画《勝手に逃げろ人生》』はこちらです。

ゴダール作品観るならAmazonPrimeビデオがおすすめ。U-NEXTも洋画多いのでNetflixオリジナルドラマに飽きた、邦画よりは洋画好きだという人にはおすすめです。

備考メモ

成田悠輔:1985年生まれ。日本の経済学者、起業家。イェール大学助教授、一橋大学特任准教授、東京大学招聘研究員、半熟仮想株式会社代表取締役。 世界経済フォーラム2023年度ヤング・グローバル・リーダー(ビジネス部門)の一人。専門はデータ・アルゴリズム・数学・ポエムを使ったビジネスと、公共政策の創造とデザイン。​

岡崎健二郎:造形作家。武蔵野美術大学客員教授。1982年の第12回パリ・ビエンナーレ招聘以来、数多くの国際展に出品。作品制作と並行して批評家としても活動。絵画、彫刻、建築、思想など多岐にわたるジャンルを行き来し、メタ的視点から表現を展開。

地方出身女。趣味は読書と映画鑑賞と自転車・散歩。いろいろな土地に住みついて文化や食べ物、言語を学ぶことが道楽。ブログはぼちぼち更新していきます。