田辺聖子が語る、普遍的な意味のある『ロマンチック』

コラムニストで翻訳家の山崎まどかによるエッセイより。

一歩外に出て、日常の美しさに気づく

1950年代から活躍し、小説「感傷旅行」で芥川賞を受賞している作家の田辺聖子さんは、女性の心の機微を書かせたら右に出る者はいないという人です。大阪出身で宝塚歌劇団の大ファンとしても知られています。

恋愛小説の名手である彼女が、自ら編集したアンソロジーのテーマとして選んだのが”ロマンチック”でした。猫を愛する作家の熊井明子(1940-)のエッセイから、与謝野晶子(1878-1942)の「みだれ髪」まで、「ロマンチックはお好き?」というタイトルで田部さんが選んだ短編作品のジャンルは多岐にわたります。中にはすぐにロマンチックという言葉に結びつけることができない作品もあります。そのことについて田辺さんは解説で、「ロマンチックという言葉がもたらすイメージは、普遍的な共通点はないかもしれない」と語っています。そこには多様な意味が重ねられているのかもしれないというのです。

空想、夢見がち、感傷、神秘。そうしたものを含んだロマンチックという言葉には、独特のスウィートな感じがあります。その響きがもつ甘やかでやさしいイメージがときに、取るに足らないものとして扱われることもあるかもしれません。しかし田辺さんは、ロマンチックという言葉に、スウィートな現実逃避やときめきを梃子にして、生きる力を取り戻すという意味を付け加えたい、と書いています。

「ロマンチックというのは、人生が一瞬、あけぼの色に、ほのあかるんでくることです。」

人生にロマンチックなものを求めることは、美しいものを信じる心や希望を見出そうとする姿勢と結びついています。ロマンチックは恋愛に関係することばかりではありません。日常生活に思いがけない美しいディテールを発見し、そのつもりで周囲を観てみるとさまざまなところにロマンチックは見つかるものだと田辺さんは指摘します。

夢見る心の柔らかさを肯定する人は、どんな状況でも身の回りにロマンチックなものを見つけられるのかもしれません。そんな風に、ロマンチックに生きていきたいものだと思います。

今後読みたい田辺聖子作品

欲しがりません勝つまでは(ポプラ文庫)

戦争という過酷な現実の中で、物語を愛する少女は作家への夢を育んでいた―。多感な少女時代を、戦後を代表する作家・田辺聖子が回想する、自伝的エッセイ。読書歴とともに13歳の頃から書いていた習作を紹介。人気作家の原点がここに。巻末に著者インタビューを収録。Amazon「BOOK」データベースより

甘い関係(文春文庫)

雑誌編集者の彩子、歌手志望の町子、金儲けが趣味のOL美紀。同居生活を送る三人は、それぞれの恋愛、仕事を通して人間の真理に目覚めていく。軽やかなユーモアをまとって描かれる、恋愛の美しさと哀しさ、自立と結婚、「女の真実」と「男の典型」―人生を謳歌する女たちの姿がさわやかな感動を呼ぶ傑作長編。Amazon「BOOK」データベースより

猫も杓子も(文春文庫)

自分に夢中な可愛い男、つかみどころのない素朴な男、遊び慣れた大人の男。仕事と複数の恋を楽しみながら、都会の自由を謳歌する三十歳の阿佐子。「わたしは人生の美食家」―欲望に正直に生きる楽しさの底で、人生と孤独の関係も知っている一人の女性の、甘やかな遍歴の行方は。時代を超える恋愛傑作長編。Amazon「BOOK」データベースより

おいしいものと恋のはなし(文春文庫)

別れた恋人と食べるアツアツの葱やき、結婚する気のない男との一泊旅行で食べた駅弁、女友達の恋の悩みを聞きながら食べる焼肉、浮気夫のために作るビフテキ……男女の仲に欠かせない「おいしい料理」と「恋」は表裏一体。すれ違いつつも寄り添おうとする男女の、せつなくて可愛くて、ちょっとビターな9つの恋の物語。Amazon「BOOK」データベースより

私的生活(講談社文庫)

辛く切ない大失恋のあと、剛から海の見えるマンションを見せられて、つい「結婚、する!」と叫んでしまった乃里子、33歳。結婚生活はゴージャスそのもの。しかし、金持ちだが傲慢な剛の家族とも距離を置き、贅沢にも飽き、どこかヒトゴトのように感じていた。「私」の生活はどこにある?Google Booksより

装丁がすべて、かわいい…。

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