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橋本治『そして、みんなバカになった』 (河出新書)ブックレビュー

橋本治『そして、みんなバカになった (河出新書)』を読んだ。印象深かった一部の引用。

あらすじ紹介

誰も大人になろうとしなくなったこの国へ向けた橋本治、最後のメッセージ。2000年以降に収録された貴重なインタビュー集成。高橋源一郎氏による書下ろし文を特別収録!

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気に入った文章の引用

old couple walking while holding hands
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P 179
男女の違いで言えば、病気への対し方も違いますね。女性がよく「これ、からだにいいのよ」なんて言って食べ物を勧めることがありますけど、あれはそれだけ自分の健康状態を日常生活の中で意識せざるを得ないからでしょうね。

例えば生理にしろお化粧にしろ、周期的に自身の健康状態をチェックしているようなものでしょう。お化粧のノリが悪かったらそれは肌の調子が悪いということでしょうから。男性にはそういう機会は圧倒的に少ない。そのせいかわかりませんが、女性は病気をしていてもどこかたくましいですね。病院では、お互いに”病気自慢”をするような会話がよく聞かれましたが、女性の方がそれは多かったように思います。

P 143
ー今の人は悩むよりも心を病んでしまうと言われましたが、それはなぜだと思いますか。
「悩んで当然」というかたちで体力を養わなかったことが第一。それと、人はうっかり明日のことを考えてしまうと、明後日、明明後日と、どんどん先ばかり考えてしまうんです。そこからつい、今の自分のままの状況で遠い未来の虚無みたいなものを見てしまって、未来の虚無を解決する力は自分にはないと自分に烙印を押してしまう。私だって、うっかり明後日ぐらいのことを考えそうになったら、「まだ、今日や明日のこともやっていないんだから」と、考えるようにはしているわけです。

今の若い人が絶望的になりやすいのは、今日がどうやって明日につながるかについては考えず、「あまり変わらない明日しかないよな」と思ったままで、「さらに、じゃあ」と十年後や二十年後を見てしまうからなんでしょう。でも、そもそもそんなふうに未来の虚無みたいなものを見てしまうというのは、自分の現在に立脚できていないからであって、今日できることをやることが、少しずついい舌を作っていくことにつながるんじゃないの、と思うしかないわけです。

P 221
実務教育は「自分はこれができない」と認めることから始まる。できないことを認めるために、何回かやって恥をかけばいいんです。恥をかいていく最中で、もし上司とか同僚に口汚くののしられたら、そこは悪い会社だから辞めればいい。自分をリトマス試験紙にする決意なくして世の中で生きていくのはウソだと思うんです。

世の中の人たちは、たやすく失敗する人間をバカにする傾向がある。そして人はたやすく失敗するから「おまえはダメな人間だ」というレッテルを貼られてしまう。人間は他人の貼るレッテルに従う生き物で、そういうレッテルを貼られるとダメ人間になろうとしてしまう。でも他人の貼るそんなレッテルは、自分となんの関係もないんですよ。失敗しているということは、自分なりの方法を模索してるだけの話なんだから。

自己啓発本も結局のところは、「失敗をおそれるな」ということしか言っていない。なぜ大人になるまでそんなことに気づかないのか不思議なんですよ。いま、女の人が四十くらいになると、毒親だとか、自分の親のことを悪く言うでしょう。それを聞いて「えーいまごろ⁉︎」と思う。ずっといい子をやっていて、なんでつまらないって思わないんだろう、と。中学生くらいの段階で、少しだけでも親の言うことを聞かない不良になっておく必要があるんですよ。そうやってあきらめさせないと、子供はなんとかなるもんだと思ってどんどん親が増長する。真面目な人ほど後になってから怒るけれど、浅ましいからそういうのはやめたほうがいい。

学校教育を通ってしまうと、人はどうしても失敗しないようになるんです。見栄を張ることだけはうまくなるけど、見栄張った結果、壊れやすくなるんじゃたまったもんじゃないな、って。

読者のレビューをチェック

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インタヴュー集『そして、みんなバカになった』(橋本治著、河出新書)に収められている「『年をとるってやっぱりわからない』が正しい」が、とりわけ印象に残りました。

「(『双調 平家物語』を書いているとき、年齢表をつくりながら)長生きする人たちはどういう人なのか、考えてみたんです。他人がつくってくれた安定した基礎の上に乗っかっている人たちは長生きする、というのが私の仮説です。藤原道長の娘で一条天皇の后になった中宮彰子という人は、出家して上東門院になって、87歳まで生きた。弟の藤原頼通は83歳、さらにその弟の藤原教通は80歳まで生きています。長命の家系みたいですが、血のつながりのない頼通の奥さん、隆姫女王は93まで生きている。つまり血筋じゃないわけですよ。摂関家の全盛期を生きた人たちは、平気で長生きしているの。頼通のお父さんの道長はいつ死んだかというと62なんです。栄華をつくるためにがんばったから、エネルギーを使い果たして60そこそこで死ぬ。道長に、おまえは何やってるんだとぐだぐだ言われつづけた頼通は、ずっと長生きして、70の後半になっても教通と兄弟げんかをやってるわけ。私に関白を譲れ、いや譲らない、おれの娘を后にしろ、いやしない、とか。その隙に白河天皇が即位しますが、この人もけっこうな長生きで、77まで生きている。昔の女性というと、あまりいいものも食べていないだろうし、運動もしてないし、短命なんじゃないかと思うでしょう。でもそんなことはない。女院になったような人、しかもそのまんま忘れられた女院のほうがうんざりするほど長生きしています。・・・この時代を見ていると、結局、身分保障があって、何も考えずにすんで、わがまま言っていられると長生きできるのかな、と思えてくる」。橋本説によれば、私も長生きできそうです。何も考えず、好き勝手していますから。

「『瘋癲老人日記』を書いた谷崎潤一郎はすごいと思う。年をとった自分を笑っているし、年をとった自分を笑うことを快感にしているから、ああいうフィクションができるわけでしょう。だから年とった自分に引きずられて死んじゃった川端康成と、年とった自分を笑える谷崎潤一郎の差って、すごく大きいと思うんです。・・・三島由紀夫は年寄りを外から見ておもしろがるけれども、年寄りに同化できない人じゃないかな。・・・漱石は年をとれない人でしょう。頭の中が年をとれないから、年とったことを想像するということもできにくい人だと思うな」。

「世の中のほうで老いのきちんとした標識というのを用意してくれなくなったら、あるいはそれを否定するなら、自分で考えていくしかなくて、そうなってしまうと老いは永遠に未知なんです。だって、死は一瞬であるけれど、老いというのは、いつ来るかわからない死のときに至るまで、微妙な衰弱をそれこそ無限に続けて、受け入れていくことなんですからね。年とった人が、年とるとこういうものだというのを聞いていてうそっぽい気がすることがあるのは、その人が『年をとるということは未知のことだ』とあまり意識していないからじゃない? 年をとることってやっぱりわからないと思う人の、その年のとり方のほうが、正しい気がする。人生先はわからないからどうしようって、わからないなりに手探りでいこうとしないかぎり、若くても。年をとっていても、生きていくことの実感というのはないと思うんですよ」。

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瘋癲老人日記

谷崎の生涯のテーマ「性と死」。年齢と共に歪んでゆく性の喜悦。それは同時に死に近づくことでもある。自分自身が年をとってきて、若いときに興味本位で読んだ印象と全く違う感想を持った。分かるなぁと。「老人の性」なんて汚らわしいだけだと思っていたが。

谷崎の小説を「深い」と思ったことは実は一度もない。それは芥川と同じ。「面白い(難しい言葉で言えば、芸術至上主義か)」から始まり緩慢に「死」に向かって進むという点で両文豪は相似ている。

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