写真展に行く前に知りたい『ソール・ライター』のこと

ART

写真ってアートなんだろうか

『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』を観た。
[su_quote url=”http://saulleiter-movie.com”]ニューヨーク、ロウアー・イースト・サイド。ドイツ・シュタイデル社が再発見した伝説の写真家の半生を追う。いま、彼の写真が私達の心を強く打つその理由は…[/su_quote]
正直、芸術の中で一番よく分からないと思っていた「写真」。
どこにアートとしての魅力を見出せばいいのか、
誰もが写真家になれる時代に、写真への評価は個人的により小さくなっていた。そんな気持ちの私はこの映画を観て、はじめて好きな写真家ができたのだった。
この記事では、ソール・ライターの写真展をより楽しむために知っておきたい、彼の経歴と、出演作の映画から見えてきた知られざる過去と目指したであろう姿をまとめます。

ソール・ライターの経歴

ユダヤ教の聖職者である厳格な父のもとで、規律や制限に息苦しさを感じた23歳のライターは絵を描く喜びを持ってニューヨークの街へと飛び出してゆく。
<ソール・ライター Saul Leiter(1923-2013)>
[su_note note_color=”#e7e7e7″]1923年 12月3日、ペンシルバニア州ピッツバーグ州に生まれる。
1935年頃 初めてのカメラ、デトローラ(デトロイトにある会社がつくった安価なもの)を母親にねだって買ってもらい、趣味で写真を撮りはじめる。
1946年 画家を志す。父の強い希望で通っていた神学校を中退。NYに移住する。
1951年 アメリカ発行の写真雑誌『Life』にモノクロ写真フォトエッセイ『The Wedding as a Funeral』が掲載される。
1958年〜1980年代 多くのファッション雑誌にて撮影を担当する。
1981年 スタジオを閉める。
1993年 カラー写真制作のための資金援助を受ける。
2006年 ドイツの出版社シュタイデルから初の写真集『Early Color』を出版する。
2008年 パリにて『Saul Leiter』展を開催する。
2012年 映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』(In No Great Hurry: 13 Lessons in Life With Saul Leiter)が公開される。
2013年 享年89歳でNYにて死去する。[/su_note]
89歳までの人生で写真と出会い、被写体を広告のファッションから何気ない暮らしの中のものやひとにフォーカスしていくこととなる。

映画のあらすじ

[su_youtube url=”https://youtu.be/aAuE5Gz9D9A” title=”映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』予告編”]
ソール・ライターの生活を撮影したドキュメンタリー映画で、カメラを持って街を歩く姿や、椅子に座りお茶を飲みながらゆっくりと話す姿がほとんどで特に大きな展開はない。
彼が一人ぼそぼそと話したり、写真を観ながら過去を懐かしんだりする。
字幕翻訳は、東京大学の米文学教授で雑誌MONKEYの編集者など多方面で活躍する柴田元幸。ライターの押し付けがましくない、皮肉に満ちた、されどやさしくユーモアのある言葉は、彼の翻訳だからこその味わいだと思う。
(歌手小沢健二の大学時代のゼミ担当者だと知り、そこから興味を持って、この映画を観てみた。なんてミーハーな。映画を観るきっかけはどこに転がっているかわからないものですね。)

印象に残っている彼の姿

「わたしは映画に撮られるような人間じゃない」「人生は何を得るかじゃない、何を捨てるかだ」と皮肉っぽくも穏やかに笑いながら、正しいような、でもそうじゃないようなことを控えめに話す姿が好きだった。
特別なことなど何もないし、みんなが、「なぜ?」「どうやって?」と聞くような秘密や理由など、自分の作品には何も隠れていないと、まるで自分に言い聞かせるようにつぶやく。

ライターと彼のパートナー

昔を語りながら、写真のネガや画材にあふれた部屋を片付けていると、若い頃のライターと女性の写真が出てきた。一緒に映る彼女は、40年以上彼のパートナーだったソームズ・バントリー
ふたりの写真は、とてもキュートだった。
忘れたくない二人の時間は白黒の世界で、急かさないゆっくりとした時間が伝わってくるよう。
Moments of Saul Leiter and Soames Bantry

忘れないうちに、先立ったソームズバントリーとの写真。

「彼女はね、“バケツを蹴ったんだ”。意味はわかるか? 俺のせいで死んだんだ」と笑っていた。“kick the bucket”は「首吊り自殺をする」という意味だけど、作中でもそれ以上プライベートに踏み込んだ詳しい死因は明かさなかった。

ライターと画家ボナール

二人はいつも絵や音楽の話をしていたそうで、特に画家のボナールが好きだったみたい。
ボナールは、19世紀後半フランスの前衛的な芸術集団ナビ派で活躍した画家で、猫や部屋の中の絵など日常性の高い作品を多く残している。

Pierre Bonnard

Pierre Bonnard


「誰にも影響されていないし、作品に理由なんてない」と語るソールだったけれど、わたしから見るとボナールとソールの共通点は多い。
1つ目は父親からの逃避、2つ目は日常性の高いアート、3つ目はパートナーの死、4つ目は大のねこ好き、というこの4点。
1.父親からの逃避
ボナールは父親の強い希望で弁護士を目指していたけど、やりたい絵画の道に進み、多くの仲間と出会い芸術集団に入る。
ライターも、熱心なユダヤ信者の家庭に生まれ、将来はユダヤ教の学者になるように育てられていたけど、画家を目指してニューヨークに移住する。絵から転身した写真が見初められ、その時代に生きる写真家たちと親交を深めていく。
家族からの逃避とそこから生まれる仲間との出会い方がとても似ている。
 
2.日常性の高いアート
二人とも普遍的な暮らしを題材に作品としている。
ボナールは食卓や家の中に暮らす猫などを描いた。
ライターは1950年代に、有名ファッション誌で活躍しモデルを撮っていたけど、最前線から姿を消してからは、街の風景や風や雨、雪など気候の変化を楽しんで撮った。
3.パートナーの死
ボナールにはパートナーが二人いた。
一人の女性と結婚したことを機に、もう一人の女性は自殺する。おいおいボナールって感じだけど、優しい彼はずっと罪の意識を持ち続けていたらしい。
さっきも言ったようにライターもパートナーを自殺で失った
4.大のねこ好き
あとは、ねこ好きもそう。ボナールの絵にはねこがたくさん出てくる。ライターもねこを飼っていて、映画にも何度も登場した。
Pierre Bonnard

Pierre Bonnard


ライターが意識していたのかは分からないけど、二人の共通点はこれだけある。ほかにも日本文化の影響も受けているようなのでそこはまた追々調べてみたい。
 
この映画では、まったりしたピースフルおじいちゃんのような描かれ方をしているけれど、見えない部分で困難を乗り越えての姿なのだろう。
 
ソールライターの最後の写真集を作ったのが、世界一美しい本を作るというドイツのシュタイデル社。今度は、その出版社を題材にした『世界一美しい本を作る男-シュタイデルとの旅』を観てみたい。

東京に再びライターが来る

昨年の2017年にBunkamuraザ・ミュージアムで、日本初の回顧展となる『ニューヨークが生んだ伝説 ソールライター展』が、さらに同時期に東京にて彼が敬愛するドキュメンタリー写真家W.ユージン・スミスの写真展が開催された。
映画を観たタイミングは回顧展が終わったあとで、気づくのが遅く後悔したけど、うれしいことに再び渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムにて2020年1月9日(木)〜3月8日(日)まで『永遠のソール・ライター』写真展が開催される。

Bunkamura

Bunkamura


映画で観たような、ライターが撮りためた、雨の滴る窓からの視点や上空から撮った街の姿を実際に見ることができるかもしれない。
わくわくに胸が高まる。

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