影の娘―サルトルとの二十年

ART

『影の娘―サルトルとの二十年』(人文書院)を読んだ。


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作品について

あらすじ

「私がサルトルの生活の中に入ったとき、彼の人生の完全な同伴者であるシモーヌ・ド・ボーヴォワールのほかに4人の女性がいて、私は5番目となった」ーサルトルの恋人であった女性、リリアーヌ・シエジェルが書いた回想記。

気になった箇所の引用

「ちょっと、あなたの五人の女のうち三人がユダヤ人よ、偶然ということおはないでしょう」「ユダヤ人女性が、僕が特に好きな目の表情をしているんだ。あの目の中には、君たちの歴史が隈なく記されているのさ」(P57,l4-6)

遺棄神経症とは

幼少期に遺棄されたという感情を持ち、満たされない情緒的安心感を追い求め、成人期に達しても依然として遺棄される不安を抱えている人のこと。(参照
リリアーヌは約束事に対して、異常な執着心を見せていた。

サルトルという男

サルトル の20年来の恋人であった女性がはじめて描いた回想記であり、男性存在としてのサルトル を様々な角度から裸にしている。(P264,l1-2)

彼女が描き出したサルトル の肖像はすこし滑稽なところもあった。
だけれども、他者の目に映った真実が自己の真実であるとする実存主義の考えからして、彼が彼女だけに見せたサルトルもまた、彼の真実であったといえる。
その姿が私にはものすごく魅力的でいて、女の誰もが自分だけに見せるサルトル を消して手放さずに別れなかった気持ちがわかるような気もした。

彼の言動

  • 女たちのデートで予定表を一杯にしながらも仕事の時間だけは断固として確保しようとする
  • 日常生活の営みにおいてまったくの無能力
  • ウソがうまくウソをつくことに楽しみを覚えている
  • 同時に人のウソを見破ることに長けていて大の詮索好き
  • 御馳走を前にすると上機嫌だけれども、嫌いな食べ物や安酒を前にすると不機嫌になる
  • 女たちとのどの関係も犠牲にしないために驚くほどまめに仕えている
  • 突如起こり出したり、女たちの嫉妬に対して必死に弁護する
  • 政治的な結びつきにおける人の良さを丸出しにしていると同時に人の良さを自分でも笑っている(P246より参照)

異なる女性に1人ずつ違う顔を見せ、女性たちに手を焼き、多くのものを与えてきたサルトル に対してボーヴォワールは「感覚的な何かで、本当の快楽だった」と話したらしい。
女性たちはサルトルに対して、無関心に見せようともどうしてもできない。そういう意味で、女というのは手放しで開放的に感覚的に自由になることは難しいことのように思える。
結局女性たちよりも誰よりもサルトルが人生を楽しみ、幸せだったと言える。

リリアーヌの再生

この本はサルトル に対する記録であるとともに、彼とともに過ごしたリリアーヌが成熟するまでの記録でもあった。

彼によって「遺棄神経症」から立ち直り、人生に開眼し、愛する術を学ぶ。
何度となく親に置き去りにされた記憶、痛手の深さから彼女が「もみ消し」、他人ではなく自分自身に対して隠し、成長しても引きずり続けた幼少期(P242)

彼女はユダヤ人の家庭に生まれ、父母の愛情に恵まれなかった。戦争通は、ユダヤ人であるがゆえに父母と別れて「影の娘」の生活を強いられ、姉は強制収容所に送られている。
これらすべてが彼女に「遺棄神経症」の兆候を与え、たえず保護者を必要とするメンタリティーの持ち主になっている。その彼女が頼りにしていた母を失ったあと、どうやって自分を取り戻していくか。(P247)

リリアーヌが手紙を送ったことで出会ったサルトルとの関係は、はじめは愛人というよりも精神を病んだものとそれを精神分析医として治療する姿に思えた。
サルトル の教育とも言える日々を過ごして、彼女は幼少期から脱した。
実際に彼女の不幸の原因というものを過去にあって、なんとか引き出すことでなんとか抜け出させようとしているのは明らかであった。
途中、ピグマリオン効果によって彼が彼の理想とする女性に育てようとする姿も見受けられ、専門的な物書きを望んだらしいがそうはならず。
「前髪を下ろしていると頭が悪そうで意固地に見えるよ」(P113)というセリフからも、その傾向は見て取れた。
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